音程は合っているはずなのに、コーラスに入ると自分の声だけが浮いて聴こえる。脇で歌う声には、主役とは別の技術が要ります。
バンドのコーラス、友人の曲への参加、録音での声の重ね。どれも「うまく歌う」より「うまく混ざる」ことが求められる場面です。
「浮く」と「混ざる」の違いから入り、音程、音色、タイミング、音量の順に、合わせる点を取り上げます。
「混ざる」と「浮く」は、何が違う?
二つの声が一つの音に聴こえるか、別々の音に聴こえるかの違いです。
コーラスがうまく混ざっていると、聴き手にはメインボーカルが一段厚くなったように聴こえます。浮いていると、メインの横に別の人が立って歌っているように聴こえます。
主役として歌うときは、声が周りから浮き立つことが長所になります。コーラスではその逆で、浮き立たないことが長所です。主役として評価されてきた歌い手が、コーラスに入ると浮いてしまうことがあるのはこのためです。場の条件によって求められるものが変わる全体像は、カラオケでは歌えるのに他の場で崩れる理由にまとめています。
違う音を重ねるハモリの取り方はハモリが取れない理由で、二人が並んで歌う場面はデュエットの合わせ方で扱いました。ここでは、主役を支える脇の声としての混ざり方に絞ります。
音程が合っているのに、なぜ浮く?
母音の響き方が違うと、同じ高さでも別の音色として聴こえるからです。
声の音色は、口やのどの形でつくられる響きで決まります。同じ「あ」でも、口の開き方や舌の位置が違えば、響きの強い帯域がずれます。口やのどの形が響きを決める仕組みは、話し声・歌声・管楽器の共鳴を扱った研究で説明されています(出典:声道の共鳴を扱った研究)。
二人の音程が合っていても、響きの帯域が違えば、耳はそれを二つの別の音として聴き分けます。コーラスで最初にそろえるのは、母音の口の形です。メインが明るく横に開いた「あ」なら、コーラスもそれに寄せます。
もう一つ気をつけたいのが、声の通りのよさです。訓練された歌声には約3kHz付近に音のエネルギーが集まる性質があり、これがオーケストラの中でも声を届かせると説明されています(出典:歌声の音響学の解説)。主役には欠かせない性質ですが、コーラスでこの成分が強すぎると、メインより前に出てしまいます。響きを少し丸くするだけで、混ざり方は大きく変わります。通る声の仕組みは歌の倍音とはで扱っています。
音程は、何を基準に合わせる?
メインボーカルの音程が基準です。楽譜上の正しい高さより、メインに合っているかを優先します。
メインボーカルの音程も、わずかに揺れています。コーラスが楽譜どおりの高さを狙いすぎると、メインとの間にわずかな差が生まれ、うなりとして聴こえることがあります。うなりとは、要するに、近い高さの二つの音が重なったときに生まれる、音量の周期的な揺れのことです。
同じ音やオクターブ違いの音を重ねる場合は、メインの声を聴きながら、うなりが消える位置に寄せます。うなりを手がかりに合わせる方法は一人の練習で音程が合っているか確かめる方法で扱っています。
伴奏がなく声だけで重ねる場面では、互いの声が基準になるぶん、全体が下がる危険も共有されます。この点はアカペラで音程が下がっていく理由を参考にしてください。
ビブラートは、コーラスで使っていい?
基本は控えめにし、使うならメインの揺れの幅に合わせます。
ビブラートは、声の高さが周期的に揺れる状態です。音楽を専攻する学生を複数の施設で調べた研究では、揺れの速さは平均で1秒間に約6回、自然に聴こえる範囲はおよそ5〜7回でした(出典:Journal of Voice)。
速さに加えて、揺れの幅も印象を左右します。オペラ歌唱の評価を分析した研究では、評価を左右していたのは揺れの速さより幅のほうでした(出典:Frontiers in Psychology)。コーラスで二人の揺れの幅が違うと、それだけで別々の声に聴こえます。
迷ったら、コーラスはビブラートをかけずにまっすぐ伸ばすのが安全です。メインがビブラートをかけている箇所で揺れを重ねたい場合は、幅をメインより小さくしてください。ビブラートの仕組みはビブラートの出し方で扱っています。
言葉の入りと終わりは、どうそろえる?
子音はメインと同時に入れ、語尾はメインと同時か、わずかに早く切ります。
コーラスが浮いて聴こえる原因として、音程や音色以上に目立つのが、子音と語尾のずれです。特に「さ」や「た」のような鋭い子音が一人だけ先に出ると、その瞬間だけ声が二重に聴こえます。
タイミングの感じ方には、音の立ち上がりや消え方が関わることが分かっています(出典:Music Perception)。入りの子音と語尾の消え方がそろうと、二つの声は一つの音の形として聴こえやすくなります。
語尾は、メインより長く残さないのが原則です。メインが切ったあとにコーラスだけが残ると、はっきり浮きます。子音の出し方は歌の滑舌をよくするには、語尾の処理はフレーズの終わり方を参考にしてください。
音量は、どれくらいが適量?
メインの声が常に上に聴こえる程度です。自分の声がはっきり聴こえるなら、多くの場合は大きすぎます。
コーラスは、メインの声の下に敷く層です。自分の声がくっきり聴こえている状態は、聴き手にとってもコーラスが前に出ている状態です。自分では少し物足りない程度が、客席ではちょうどよいことがよくあります。
ただし、小さくするために息を多く混ぜすぎると、今度はかすれた音が浮きます。音量は下げても、声の芯は残すこと。声の大きさを息の量ではなく響きで調整する考え方は歌の声量を上げるにはで扱っています。
ライブでは、返しの中で自分の声が聴こえにくく、つい大きくなりがちです。その場合の考え方はバンドの中で歌うとずれる理由が参考になります。
コーラスの練習は、どう進める?
メインの録音に重ねて歌い、録音で混ざり方を確かめる流れで進めます。
- メインボーカルだけを聴き、母音の形、ビブラート、語尾の長さを書き出す
- メインの録音に重ねて、同じ音でユニゾンを歌う
- 重ねた録音を聴き、浮いている箇所に印を付ける
- 印の箇所で、母音・子音・語尾のどれがずれているかを確かめて直す
- 最後に、違う音を重ねるパートに移る
二番目で、いきなりハモリから始めないのがポイントです。同じ音で混ざれない状態では、違う音でも混ざりません。ユニゾンで混ざる感覚をつかんでから、音を変えます。
自分の声を重ねて録る場合、ヘッドホンの中の自分の声とメインのバランスが、混ざり方を左右します。録音での注意点はレコーディングの歌い方で扱っています。コーラスで他の声との関係の中に自分の声を置く経験は、主役として歌うときにも、周りの音を聴く耳として生きてきます。
よくある質問
Q. ハモリとコーラスは、何が違いますか。
コーラスは主役を支える脇の声全般を指し、同じ音で重ねる場合も、違う音で重ねる場合も含みます。違う音を重ねることを、特にハモリと呼びます。
Q. 地声が強くて、どうしても混ざりません。
音量を下げるより先に、母音の口の形をメインに寄せ、響きを少し丸くしてみてください。通りの強い成分が抑えられると、音量を大きく変えなくても混ざりやすくなります。
Q. コーラスばかり担当していると、主役のときに声が小さくなりませんか。
役割に応じて切り替える力として身につければ、問題にはなりません。むしろ周りの音を聴く耳が育ち、主役のときの音程やタイミングにも生きてきます。
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