伴奏なしで歌い終えてからピアノで確かめると、始めより低くなっている。アカペラではよく起きることですが、仕組みが分かれば防ぎ方も見えてきます。
オーディションのアカペラ審査、曲の頭だけ伴奏なしで歌う演出、集まりでの一曲。伴奏のない場面は意外と多く、そのたびに音程が不安定になるなら、原因を知っておく価値があります。
伴奏がある歌との違いから始めて、下がりやすい場所、確かめ方、通して保つ練習までを一つずつ確認します。
アカペラだと、なぜ下がっていく?
一音ごとの小さなずれが、戻されないまま積み重なるからです。
伴奏があるとき、歌い手は無意識のうちに伴奏の和音と自分の声を比べ、ずれを直しながら歌っています。伴奏は、いわば常に鳴っている正解です。
アカペラでは、この正解がありません。次の音の高さは、直前に自分が歌った音を足場にして決めることになります。足場が少し低ければ、次の音もその分低いところから測られます。一つひとつは気づかないほどのずれでも、何十音と重なると、曲の終わりではっきり分かる差になります。
Vocal Campのレッスンでも、アカペラで上がっていく人より、下がっていく人のほうが多く見られます。下向きのずれを生みやすい場所が、歌の中にいくつもあるためです。伴奏という支えが外れたときに何が起きるかの全体像は、カラオケでは歌えるのに他の場で崩れる理由にまとめています。
下がるのは、耳が悪いから?
多くの場合、耳ではなく、頭の中の基準を保ち続ける力の問題です。
歌うとき、人は「次はこの高さ」という見本を頭の中に作り、それに声を合わせています。歌と拍の同期を調べた研究では、頭の中で期待した高さに声帯の張りを合わせる仕組みが、歌の正確さを支えていると説明されています(出典:Frontiers in Human Neuroscience)。
伴奏があれば、見本は外から毎回更新されます。アカペラでは、見本そのものを自分で保たなければなりません。聴けば違いが分かる人でも、見本を長く保つ練習をしていなければ、少しずつ見本ごと動いてしまいます。
音は分かるのに声が合わない状態の仕組みは知覚と産出のズレ、見本を保つ耳の育て方は相対音感の鍛え方で扱っています。
どこで下がりやすい?
長く伸ばす音、下へ動く音、息を吸った直後の三か所です。
| 場所 | 起きること | 対処 |
|---|---|---|
| 長く伸ばす音 | 息の勢いが落ちると、音も一緒に沈む | 吐く息を最後まで一定に保つ |
| 下へ動く音 | 下がる幅を大きく取りすぎる | 着地する音を先に頭で鳴らしてから動く |
| 息を吸った直後 | 吸う間に見本を見失い、低めから入り直す | 吸う前に、次の最初の音を頭で鳴らしておく |
一つめは、伴奏があっても起きる沈み方です。伸ばす音が下がる仕組みは音程がぶら下がる原因で詳しく扱いました。アカペラではこれが次の音の足場になるので、影響が曲の最後まで残ります。
三つめは見落とされがちです。息を吸う一瞬、頭の中の音は途切れます。そこで見本が少し下がると、次のフレーズ全体が低い位置から始まります。吸う場所の決め方は息継ぎの位置の決め方で扱いましたが、アカペラではここに「吸いながら次の音を鳴らしておく」ことが加わります。
反対に、上がっていくタイプの人もいます。高い音に向かって力んだとき、行き過ぎた高さがそのまま次の基準になるケースです。この場合は、音程を思った位置に置く力から見直すのが近道です。
キーを保つには、歌う前に何をする?
そのキーの中心になる音と、それを含む和音を、頭の中で鳴らしてから入ります。
キーの中心になる音を主音と呼びます。要するに、そのキーの「帰る場所」になる音です。多くの曲は、この音に向かって落ち着くようにできています。キーと音の並びの関係はキーとスケールの話で扱っています。
歌い出す前に、主音をピアノやアプリで短く鳴らし、そのまま頭の中で主音から始まる和音を想像します。歌っている最中も、フレーズの終わりに主音が出てくる箇所では、「帰ってきた音が、さっきの主音と同じ高さか」を確かめます。
頭の中で音を鳴らす作業は、それ自体が練習になります。頭の中で歌う練習、実際に歌う練習、体を動かす練習を組み合わせたほうが、単独で行うより演奏がよくなったという研究があります(出典:Frontiers in Psychology)。声を出す前に頭で鳴らす習慣は、アカペラの土台になります。
下がっているかを、どう確かめる?
歌い始めと歌い終わりの音を、基準の音と比べるのが一番早い方法です。
- 最初の音をピアノやアプリで鳴らしてから、伴奏なしで一コーラス歌って録音する
- 歌い終わった直後に、同じ基準の音を鳴らす
- 最後の主音が基準とそろっているか、低いかを聴き比べる
- 低ければ、録音を区切りごとに止めて、どこから下がり始めたかを探す
四つめの手順で、自分の下がり始める場所が分かります。多くの場合、それは上の表の三か所のどれかです。場所が分かれば、そこだけを取り出して練習できます。
うなりを使って比べる方法や、音程を表示する道具の使い方は一人の練習で音程が合っているか確かめる方法にまとめています。数値を見る道具は便利ですが、音程の良し悪しを数値だけで決めないようにしてください。
通して保つ力は、どう育てる?
答え合わせをする区切りを、少しずつ長くしていく練習で育ちます。
最初は1フレーズごとに基準の音で確かめます。ずれなくなったら、確かめる場所をAメロの終わりに、次は1コーラスの終わりに、と間隔を伸ばしていきます。区切りが長くなるほど、頭の中の見本を自分で保つ時間が長くなります。
音程の安定は、短期間で完成するものではありません。7週間ウォームアップを続けた声の変化を追った研究では、声の高さの水準と規則性が向上したと報告されています(出典:7週間のウォームアップが声に与える影響を追った研究)。週単位で変わっていくものとして、焦らず区切りを伸ばしてください。
練習の場では、支えを一つだけ残す方法もあります。最初の一音だけ、あるいはメトロノームの拍だけを残して歌うと、音程の基準を保つことに集中できます。合唱やコーラスのように複数の声で歌うアカペラでは、互いの声が基準になるぶん、別の難しさが出てきます。その点はハモリが取れない理由で扱っています。
オーディションでアカペラを求められたら?
最初の音を正確にもらい、長さより保つことを優先します。
審査でアカペラを求められる場合、始める高さは自分で選べることが多いはずです。本番では普段より力みやすいので、原曲の高さにこだわらず、自分が一番安定する高さで始めてください。高さの選び方は自分に合う高さの見つけ方で扱っています。
求められる長さが短いなら、無理にサビまで歌わず、下がらずに歌い切れる範囲を選ぶのも一つの判断です。短くても、始めと終わりの高さがそろっていることは、基準を自分の中に持っている証拠として伝わります。準備全体の組み立てはオーディションのボイトレ対策を参考にしてください。
よくある質問
Q. 音を聴いただけで高さが分かる人でないと、アカペラは難しいですか。
その必要はありません。アカペラで大切なのは、最初の音からの距離を保ち続ける力です。こちらは大人になってからでも、練習で伸ばしていけます。
Q. 伴奏ありでは下がらないのに、アカペラだけ下がります。
伴奏に合わせて直す力はある、ということです。頭の中で主音を保つ練習と、区切りごとの答え合わせを加えると、伴奏がない条件にも移していけます。
Q. 下がらないように、少し高めを狙って歌えばいいですか。
高めを狙うと、今度は上ずりやすくなります。狙う高さは変えず、下がりやすい三か所を特定して、その場所だけを重点的に直すほうが効率的です。
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