メロディのある部分は歌えるのに、ラップパートに入った途端にもたつく。あるいは、合ってはいるのに棒読みに聴こえる。原因の多くは、1拍の中の細かさにあります。
ポップスやアイドルの曲、R&Bの曲には、歌の途中に短いラップが入ることがよくあります。歌が得意な人ほど、この部分で「急にリズムが崩れる」と感じやすいようです。
ラップは歌と地続きですが、聴かせどころが違います。その違いを押さえると、練習の方向が決まります。
歌との違いを確認してから、もたつく理由、強く言う場所、声の出し方、練習の手順までを一つずつ確認します。
ラップパートは、歌と何が違う?
音程の動きが少ない分、言葉を置く位置と音の形が主役になります。
メロディのある部分では、音程の上がり下がりが聴き手の耳を引っぱってくれます。多少リズムが甘くても、メロディが流れを作ってくれるわけです。ラップではその支えがほとんどありません。聴き手の耳に届くのは、言葉がどこに置かれ、どんな形で鳴っているかです。
ファンク、ソウル、R&B、ヒップホップ、EDMの五つのジャンルのプロの録音を比べた研究では、拍に対して音を置く位置だけでなく、音の長さや立ち上がりの形にも、ジャンルごとの特徴があることが示されています(出典:Popular Music)。ラップのノリは、置く位置と音の形の組み合わせでできているということです。
なぜ、もたついたり走ったりする?
1拍を四つに割った細かい目盛りを持たずに、言葉を詰め込んでいるからです。
ラップの言葉は、多くの場合、1拍を四つに割った細かい単位(16分音符)の上に並んでいます。16分音符とは、要するに「タカタカ」と1拍に四つ入る細かさのことです。この目盛りを感じずに歌うと、言葉の数に合わせて速さが揺れ、詰まる箇所でもたつき、少ない箇所で走ります。
メロディの部分では、1拍を二つに割る程度の細かさで足りることが多いため、歌が得意でもこの目盛りが育っていない場合があります。細かい目盛りがノリにどう効くかはR&Bの歌い方で、拍の流れを体で保つ感覚はタイム感とはで扱っています。
どこを強く言えばいい?
拍の頭、韻を踏んでいる言葉、意味の中心になる言葉の三つです。
ラップを全部同じ強さで言うと、棒読みに聴こえます。強く言う場所が決まっていないためです。まず歌詞を見て、拍の頭に来る言葉、同じ響きが繰り返される言葉(韻)、意味の中心になる言葉に印をつけます。この三つが重なる場所が、そのフレーズの一番の聴かせどころです。
残りの言葉は、軽く短く通します。強い言葉と弱い言葉の落差が、ラップの推進力になります。強弱の落差でリズムを作る考え方は、英語の歌のリズムとも共通しています。
韻は、母音でそろえる
日本語のラップの韻は、母音の並びをそろえて作られることが多くあります。「みらい(未来)」と「きたい(期待)」は、どちらも母音が「い・あ・い」と並ぶので響き合います。韻の言葉では母音をはっきり響かせると、聴き手に繰り返しが伝わりやすくなります。
声は、歌と同じ出し方でいい?
話し声に近い声が基本です。ただし息の支えは歌と同じように保ちます。
歌の声のまま言葉を伸ばすと、ラップらしい切れが出ません。反対に、話し声のつもりで力を抜きすぎると、声が伴奏に埋もれます。話すときの声の高さを基準にしながら、息はフレーズの最後まで一定に吐き続けます。
切れを作るのは子音です。音の立ち上がりの鋭さや消え方は、聴き手がタイミングをどう感じるかにも影響すると分かっています(出典:Music Perception)。子音を短く鋭く立てると、同じ位置に置いた言葉でも、拍にぴったり合って聴こえます。言葉数が多い箇所で口を追いつかせる方法は早口の歌で口が回らないときは、マイクとの距離の使い方はマイクで歌うときの距離と角度が参考になります。
ノリを出すには、わざとずらす?
ずらすのは最後です。まず細かい目盛りの上に、正確に言葉を置けることが先になります。
ラップの上手な人は、拍より少し後ろに言葉を置いて余裕を出したり、前に詰めて勢いを出したりします。ただ、そのずれが聴き手に伝わるのは、土台が正確な場合です。
リズムの複雑さと「体が動く感じ」の関係を調べた研究では、ずれや意外性が少なすぎても多すぎても心地よさは下がり、中くらいのときに最も高くなりました(出典:PLOS ONE)。さらに、熟練した演奏者の細かなずれは、一般の聴き手のノリの感じ方にはほとんど影響しなかったという研究もあります(出典:Frontiers in Psychology)。まず合わせ、次にずらす。この順番を守ります。後ろに置く感覚はタメと後ろノリの正体で説明しています。
ラップの練習は、何から始める?
目盛りを刻む、リズムだけで読む、強い言葉を重ねる、原曲と比べる、の順です。
- メトロノームを鳴らし、1拍に四つ「タカタカ」と口で刻む。膝を軽く叩きながら行う。
- 歌詞を、刻みの上にリズムだけで読む。どの言葉がどの目盛りに乗っているかを確かめる。
- 拍の頭・韻・意味の中心に印をつけ、そこだけ強く言う。
- 原曲に合わせて読み、録音して、1フレーズずつ原曲と交互に聴き比べる。
2で言葉が目盛りからはみ出すなら、テンポを落とした音源で行います。どの言葉が目盛りのどこに乗るかを、紙の歌詞に縦線で書き込んでおくと、崩れる場所が目で分かるようになります。1拍ごとに縦線を一本、目盛りごとに点を打つ程度で十分です。
1で体を動かすのは、歌うことと拍に合わせて動くことが、共通の仕組みで動いていると考えられているためです。正確に歌える人ほど、拍に合わせて体を動かす精度も高いことが分かっています(出典:Frontiers in Human Neuroscience)。原曲から言葉の位置を聴き取る手順は耳コピの順番で扱っています。
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よくある質問
Q. 歌が得意なら、その力はラップにも生かせますか。
音程の力はそのままでは生きませんが、息の支えや子音の扱いは共通しています。細かい拍の目盛りを育てる練習を足せば、歌の経験は土台として役に立ちます。
Q. 声が高くて、ラップに迫力が出ません。
迫力は声の低さより、子音の鋭さと強弱の落差から生まれます。無理に低く出すより、自分の話し声の高さで、強い言葉と弱い言葉の差をはっきりさせてください。
Q. 英語のラップと日本語のラップで、練習は変わりますか。
細かい拍の目盛りを刻む練習は同じです。違うのは強く言う場所の決め方で、英語は単語の強く読む音節が手がかりになり、日本語は韻の母音や意味の中心が手がかりになります。
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