ピッチ感 2026.10.02 読了9分

音程が上ずるのはなぜ?高く外れる声を落ち着かせる

サビで気持ちが乗った瞬間、録音を聴くと音が少し高い。下がるのではなく、上に外れる。上ずりは、力を入れた場所ほど起きやすいという特徴があります。

音程の悩みというと「下がる」ほうがよく話題になりますが、上ずりに悩む人も少なくありません。しかも上ずりは、本人が一番気持ちよく歌えている場所で起きやすいため、自分では気づきにくいのが厄介なところです。

高く外れる理由の多くは、耳ではなく体の使い方にあります。

結論:音程が上ずる主な原因は、息を押しすぎること、到達する高さを決めないまま勢いで突き上げること、自分の声が聴こえない環境で声を張ることの三つです。いつ上ずるかを録音で見分けたうえで、息を一定に保つ、音を出す前に高さを頭の中で鳴らす、口の形で響きの余裕を作る、の三つで落ち着かせていきます。

上ずりの正体から入り、見分け方、三つの調整、環境の整え方の順に段取りを示します。

上ずりとは、どんな状態?

目標の音より高いほうへ外れる状態です。ぶら下がりとは向きが逆になります。

音程のずれには二つの向きがあります。目標より低く出る「ぶら下がり」と、高く出る「上ずり」です。ぶら下がりは、息や支えが足りずに音が沈んでいく現象で、音程がぶら下がる原因で詳しく扱いました。

上ずりはその反対で、エネルギーが余っているときに起きやすいのが特徴です。張り上げる高音、感情が高まるサビ、勢いよく入るフレーズの頭。力が入る場所ほど、音は上へ引っぱられます。

なぜ、高く外れてしまう?

声の高さは声帯の張りで決まり、そこに息の圧が加わると、狙った高さを越えやすくなるからです。

声の高さは、主に声帯の張り具合で決まります。そこに、声帯の下からかかる息の圧も関わっています(出典:日本音響学会誌(発声と声帯振動の基礎))。張りで高さを合わせたつもりでも、勢いで息を強く押すと、音は狙いより上に出やすくなります。

もう一つの原因は、狙い方です。高い音を「下から突き上げて届かせる」歌い方をしていると、届いた勢いのまま行き過ぎます。的に向かって全力で走り込み、止まりきれずに通り過ぎるようなものです。

伸ばす音の途中でじわじわ上がる場合もあります。音を長く伸ばすうちに、音量を保とうとして息の圧を少しずつ強めていくと、それにつれて高さも持ち上がります。伸ばしている間は、息の量を増やすのではなく、同じ量で吐き続ける意識が必要です。

耳が悪いから、上ずるの?

多くの場合、違います。聴き分けはできていて、声にする段階でずれています。

歌の音程は、頭の中で期待した高さに、声帯の張りを合わせる仕組みで作られていると考えられています(出典:Frontiers in Human Neuroscience)。この仕組みは、聴き取る力とは別に、声にする側の調整でもあります。

リズムの研究でも、聴き取りは正常なのに、動きに変える段階でずれる人がいることが示されています(出典:拍への同期のつまずきを調べた研究)。音程も同じで、「録音を聴けば上ずっていると分かる」なら、耳は働いています。直すべきは声の側の使い方です。耳そのものを育てる方法は相対音感の育て方で扱っています。

自分の上ずりは、どの型?

いつ上ずるかを録音で確かめると、原因が絞れます。

上ずる場面考えられる原因
高音に届いた瞬間下から突き上げて、行き過ぎている
強く張る音、サビ息を押しすぎている
伸ばしている途中で、じわじわ上がる伸ばすうちに息の圧が増えている
伴奏が大きい場所、ヘッドホン使用時自分の声が聴こえず、声を張っている

確かめるときは、一曲を通して聴くより、上ずりそうな箇所を1フレーズずつ録って聴くほうが型が見えやすくなります。基準の音と比べる方法は一人の練習で音程が合っているか確かめる方法、録音の聴き方は録音して聴く練習が参考になります。

上ずりを落ち着かせるには?

息を一定に保つ、高さを先に鳴らしてから置く、口の形で余裕を作る、の三つです。

息は、押さずに一定に

熟練した歌手は、息を吐きながらお腹や肋骨まわりの筋肉で、声帯の下の圧を細かく調整していることが測定で示されています(出典:Journal of Voice)。上ずる箇所では、息を増やして盛り上げるのではなく、同じ量の息を保ったまま声を響かせることを練習します。音量を少し落として正しい高さに置けるかを確かめ、そこから少しずつ音量を戻します。

高さを、先に頭の中で鳴らす

音を出す前に、目標の高さを頭の中で一度鳴らします。そのうえで、突き上げずに、その高さに声を「置く」。音程を当てにいくのではなく置くという考え方はピッチコントロールとはで、音から音への移り方は音から音への移り方で詳しく扱っています。

練習では、上ずる音をピアノやアプリの単音で鳴らし、まずハミングで同じ高さに合わせます。合ったら口を開いて母音に変え、高さが動かないかを確かめます。最後に、その音の一つ前の音から移って同じ高さに置きます。前の音から勢いをつけずに移れるようになると、曲の中でも行き過ぎが減っていきます。頭の中で鳴らす練習と、実際に声に出す練習を組み合わせると、どちらか一方より演奏がよくなったという研究もあります(出典:Frontiers in Psychology)。

高音は、口の形で余裕を作る

高い音で口が狭いままだと、響きが足りない分を息で補おうとして、押しすぎにつながります。高い声では、口を開けて声道の響きを音の高さに合わせる調整が行われていることが分かっています(出典:声道の共鳴を調べた研究)。響きに余裕ができると、押さなくても声が届くようになり、上ずりの原因が一つ減ります。

自分の声が聴こえないと、なぜ上ずる?

聴こえない分を補おうとして声を張り、張った勢いで高さが上がるからです。

伴奏が大きいスタジオやライブ、ヘッドホンで自分の声が小さく返ってくる録音では、声を張りやすくなります。張れば息の圧が上がり、音も上ずりやすくなります。このときは、声を張って解決するのではなく、自分の声が聴こえる環境を先に作ります。ヘッドホンのバランスの整え方はレコーディングの歌い方で、ライブでの返しの聴き方はバンドの中で歌うとずれる理由で扱っています。

ウォームアップも音程の安定に関わります。7週間ウォームアップを続けた記録では、声の高さの水準と安定性が向上しました(出典:7週間のウォームアップの音響的効果を追った研究)。発声練習の組み立ては発声練習の順番を参考にしてください。

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よくある質問

Q. 緊張すると上ずりやすくなります。

緊張すると息が浅く速くなり、声を押しやすくなるためと考えられます。本番前に、上ずりやすい箇所を音量を落として正しい高さに置く確認をしておくと、押さずに歌う感覚を思い出しやすくなります。

Q. 上ずらないように、少し低めを狙うのはどうですか。

一時的には合って聴こえても、今度はぶら下がりの癖がつきやすくなります。狙いをずらすより、正しい高さを頭の中で鳴らしてから、押さずに置く練習を優先してください。

Q. ハモリのときだけ上ずります。

主旋律に負けないように声を張っている可能性があります。音量を主旋律より一段落とし、自分の音を先に頭の中で鳴らしてから入ると、高さが落ち着きやすくなります。

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