好きなジャンルはある。ただ、そのジャンルで歌うと自分の声がいちばん良く鳴っている気がしない——この違和感は無視しなくていいものです。ただし「向いていない」と結論を出すのは、まだ早い段階です。
声には個体差があります。よく響く高さの範囲も、質感の傾向も、人によって違います。一方でジャンルには、求める声質や求めるリズムの型があります。この2つが噛み合うかどうかで、同じ努力量でも結果の出方が変わります。
ただ、ここには落とし穴もあります。まだ作っていない声を「持っていない」と判断してしまうことです。声質は訓練で選べる幅が広がる部分もあるので、早い段階での決めつけは損になります。
この記事では、3つの手がかりを一つずつ確認し、判断の手順までを整理します。
「声に合う」とは、何が合っている?
音域だけの話ではありません。響きの傾向とリズムの型の両方です。
合う・合わないは、しばしば「高い声が出るかどうか」に還元されます。ところが実際に噛み合いを決めるのはもっと多面的です。響きが明るいか暗いか、荒い質感が作れるか、細かい拍が扱えるか。それぞれ別の要素です。
| 手がかり | 分かること | 把握の仕方 |
|---|---|---|
| 響きの傾向 | どの帯域に成分が集まりやすいか | 録音して他者と比べる/測定 |
| リズムの得手 | 細かい分割や不均等な分割の扱い | 手拍子と歌唱で別々に確認 |
| 続けられるか | 練習量が自然に積めるか | 数か月の実績で判断 |
ジャンル側が何を求めているかの整理はジャンルで歌い方は何が変わるかにまとめています。この記事は、その要求に対して自分の側の条件を照らす話です。
手がかり1:声の響きの傾向
声質の傾向は、感覚ではなく成分の分布として捉えられます。
声の質は、長時間の平均的な成分分布から評価できることが示されています(出典:Journal of Voice(平均スペクトルによる声質評価の研究))。さらに、この分布によって声の種類を分類できることも報告されています(出典:Journal of Voice(平均スペクトルで声の種類を分類した研究))。
実務的には、自分の声が明るく前に出やすいのか、太く落ち着いて鳴るのかという傾向を掴むことになります。この傾向は、様式との相性に直結します。たとえば荒く力強い質を求める曲では、密度を作りやすい声のほうが早く形になります。
ただし、これは優劣ではなく特性です。響きの成分は育てられる部分でもあり、詳しくは歌の倍音と通る声と声量を上げる考え方で扱っています。
手がかり2:リズムの得手不得手
拍への合わせやすさには個人差があり、原因も分かってきています。
拍にうまく合わせられない場合、その背景に、聴いた音を身体の動きに変換する働きの弱さがある可能性が示されています(出典:拍への同期のつまずきと聴覚と運動の対応づけを調べた研究)。得意不得意は気合いの差ではなく、仕組みの差だということです。
また、拍に合わせる力と正確に歌う力は共通の仕組みで動いていることも報告されています(出典:歌唱とビート同期の関係を調べた研究)。リズム側が弱いと、歌全体が影響を受けます。
判断の材料としては、細かい分割の扱いと、不均等な分割の扱いを分けて見ます。前者はリズム主体の様式、後者は跳ねる様式で効きます。跳ねる分割の話はリズムのハネとは、細かい分割と装飾の関係はR&Bの歌い方にまとめています。
手がかり3:長く続けられるか
ここは測れません。ただ、結果への影響はいちばん大きい要素です。
熟練した歌い手の練習行動を分析した研究では、練習の量そのものではなく、内容の組み立て方に特徴があることが示されています(出典:熟練歌手の練習行動を分析した研究)。頭の中で音を思い描く練習と、声を出す練習、身体を使う練習を組み合わせると成果が上がることも報告されています(出典:Frontiers in Psychology(複数の練習方法を組み合わせた効果を調べた研究))。
組み立てを工夫し続けるには、その音楽を聴き込んでいることが前提になります。だから聴くのが苦にならないジャンルは、実際に有利です。好みは甘えではなく、練習量に変換される資源だと考えたほうが実態に合います。
進み方が止まる理由の整理は通っているのに変わらない理由、独りで進める限界は独学の限界はどこかで扱っています。
好きなジャンルが向いていないと感じたら
「向いていない」の中身が、技術不足なのか特性なのかを分けます。
この判断は難しく、しかも初期には誤りやすいものです。熟練した歌い手と経験の浅い歌い手では、同じ歌唱に対する聴き取りの評価が異なることが報告されています(出典:熟練歌手と経験の浅い歌手の聴感の違いを調べた研究)。つまり、自分の耳が今どこまで聴けているかによって、判断の精度も変わります。
実務的な切り分けは次の形です。様式を外して歌えば成立するのかを確かめます。装飾も崩しも外し、その曲をまっすぐ歌ってみる。それで悪くないなら、足りないのは様式の慣れです。まっすぐでも苦しいなら、高さや声質の条件を見直す段階です。
自信の扱いは歌に自信がないのはなぜか、曲の高さの調整は自分に合うキーの見つけ方をご覧ください。
声質は、決めつけなくていい
切り替えの幅は広げられます。今の声は出発点にすぎません。
声質を意図的に切り替える訓練を受けた歌手は、そうでない歌手より切り替えの幅が広い傾向が報告されています(出典:Journal of Voice(声質の切り替え幅を比較した研究))。また、プロの張った声をMRIで測った研究では、張った声が複数の質に分かれ、それぞれ声道の形が違うことが示されています(出典:Journal of Voice(複数種類の張った声の声道の形をMRIで測った研究))。
この2つを合わせると、判断の順序が見えます。声質は選択肢であって、生まれつきの配役ではない。だから「自分の声はこれだから」と早く決めるほど、選べる幅は狭くなります。荒い質感の作り方はロックの歌い方、長い音の設計はバラードの歌い方にまとめています。
決め方の手順
一度で決めず、条件を揃えて比べます。
- 候補を3つに絞る。好きなもの1つ、声が鳴りそうなもの1つ、未経験のもの1つ
- 各ジャンルから1曲ずつ選び、装飾を外してまっすぐ録音する
- 3つの録音を並べて聴き、どれがいちばん無理なく鳴っているかを見る
- 次に様式を足して録り直し、伸び幅がいちばん大きいものを見る
- 3か月続けて、練習量が自然に積めたものを選ぶ
3番目と4番目を分けるのが要点です。今の完成度と、伸びる余地は別の情報です。伸び幅の大きいジャンルのほうが、結果として速く形になります。録音の聴き方は録音して聴くと何が分かるかで扱っています。
Vocal Campの初回ボーカル診断「V-Karte」は、発声/リズム・グルーヴ/ピッチ感/表現力・テクニック/ハートの5指標で現在地を可視化します。響きの傾向とリズムの得手を切り分けて把握できるため、ジャンル選びの材料としても使えます。診断の中身は歌唱診断とはと初回ボーカル診断のページ、音楽性の育て方は歌の音楽性とは何かをご覧ください。
“なんとなく”のボイトレを、ここで終わらせる。何を直せば伸びるのかを、感覚ではなく診断で。
初回ボーカル診断に申し込む(無料)約60分・オンライン/対面。あなたの声を5指標(V-Karte)で可視化し、最短の一歩を設計します。
よくある質問
Q. 声域が狭いと、選べるジャンルは限られますか?
限られません。曲の高さは移せますし、響きの作り方でも印象は変わります。狭さより、扱える声質の数のほうが影響します。
Q. 複数のジャンルを並行してもいいですか?
土台ができてからなら有効です。初期に並行すると、どの様式も定まらないまま量が分散しやすくなります。
Q. 周囲に言われたジャンルと、自分の希望が違います。
両方を試して録音で比べるのが確実です。他者の指摘は今の鳴りを、自分の希望は続く力を示している場合があります。
もっと深く知りたい方へ。Vocal Camp公式LINEで、3D Voiceメソッドの解説と次回診断の案内をお届けしています。
LINEで案内を受け取る