止まって歌えば問題ない曲が、振り付けがついた途端に苦しくなる。息が上がり、声が揺れ、後半には音程まで崩れていく。
ダンスボーカルやアイドル、ミュージカルを目指す人にとって、動きながら歌う力は避けて通れません。そして、体力をつけるだけでは解決しない理由があります。
体の中で起きていることから始めて、吸う場所の決め方、体の使い方、組み合わせの順番へと進みます。
踊りながら歌うと、体の中で何が起きている?
動くために使う息が増え、声のために回せる息が減ります。
体を動かすと、筋肉が酸素を必要とし、呼吸は自然と速く深くなります。止まって歌うときは、息のほとんどを声のために使えます。踊りながら歌うときは、その息を、動くための呼吸と分け合うことになります。
歌うときの息は、吸う量より吐き方の制御が中心です。熟練した歌い手は、息を吐く間、お腹の壁や肋骨の間の筋肉を使って、声帯の下の圧力を細かく調整していることが計測されています(出典:Journal of Voice)。この調整に使うお腹まわりの筋肉は、振り付けで体をひねったり、かがんだりするときにも働きます。動きと歌が、同じ筋肉を取り合う形になるのです。
カラオケでは歌えるのに他の場で崩れる理由で「何かをしながら歌う」と呼んだ状態の中でも、体への負荷が最も大きい形です。息の配分の基本は歌で息が続かない原因で扱いました。踊りながら歌う場合は、この配分に「動きの分」を上乗せして考えます。
なぜ、声が揺れる?
着地や強い振りの衝撃が、吐いている息の圧を揺らすからです。
ジャンプの着地、腕を強く振り下ろす動き、急な方向転換。こうした瞬間には体の中心に大きな力がかかり、吐いている息の圧も一瞬乱れます。声は息の圧で鳴っているので、圧が揺れれば、声の大きさや高さも揺れます。
歌の「支え」という言葉が指す中身は文献によって一致しておらず、呼吸は吸い方の技術ではなく、吐く息と声帯の下の圧力の制御として捉え直すべきだという提案があります(出典:Journal of Singing)。動きの中で声を安定させるとは、要するに、衝撃があっても吐く圧をすぐ一定に戻せることです。
声の揺れを抑える一番の方法は、強い衝撃のある瞬間に、長い音や高い音を置かないことです。振り付けと歌割りを見比べ、着地と長い音が重なっている箇所を探してください。
息を吸う場所は、どう決める?
歌のブレス位置と振り付けを重ねて、強い動きの直前に吸える場所を作ります。
| 振りの種類 | 息に起きること | 対処 |
|---|---|---|
| ジャンプ・着地 | 着地の衝撃で息の圧が乱れる | 着地の瞬間に長い音を置かない。着地後に吸う |
| 回転・ひねり | 体の中心が締まり、息が止まりやすい | 回る前に吸い終え、回る間は吐き続ける |
| 腕を大きく上げる | 胸が持ち上がり、肩で吸いやすい | 腕を上げる前に吸う |
三つめの肩で吸う動きは、止まって歌うときにも問題になります。歌っている間の肩甲骨の動きを観察して、肩で吸う行為と発声の効率を調べた研究があります(出典:Journal of Singing)。腕の振りが肩での吸気を誘う振り付けでは、吸うタイミングを腕の動きの前にずらすだけで、呼吸が落ち着くことがあります。
吸う場所の決め方の基本は息継ぎの位置の決め方で扱いました。踊りながら歌う場合は、意味の切れ目と拍の空きに加えて、「振りの中で吸える瞬間か」を条件に加えます。
体の中心は、固めたほうがいい?
固めすぎると息が出にくくなります。支えることと、固めることは別です。
動きの中で声を安定させようとして、お腹や胸を固める人は少なくありません。けれど体を固めすぎると、息を吐く動き自体が妨げられ、喉にも力が入りやすくなります。締まった声になる仕組みは喉声を直すにはで扱っています。
目安は、振り付けに必要な分だけ体の中心を使い、声を出している間は吐く動きを止めないことです。止まって歌うときに吐く息の制御ができている人ほど、動きの中でもこの切り分けがしやすくなります。
練習は、どの順番で組み合わせる?
歌だけ、振りだけ、口ずさみながらの振り、両方を全力で、の順に足していきます。
- 歌だけを、止まったまま仕上げる
- 振りだけを、歌わずに仕上げる
- 振りを踊りながら、小さな声で口ずさむ(吸う場所だけを確かめる)
- 振りを半分の大きさにして、歌を本来の声で乗せる
- 両方を全力で通す
片方が「考えないとできない」段階で両方を合わせると、考えている側に注意を取られ、もう一方が崩れます。一つずつ自動にしてから重ねるという考え方は、弾き語りで歌と伴奏がずれる理由で扱った順番と同じです。
三番目の口ずさみの段階は、飛ばされがちですが、最も効く段階です。声の量を抑えることで、息が足りなくなる場所だけがはっきり分かります。ここで見つかった場所に、吸う位置を作り直してから四番目へ進んでください。
息の体力は、鍛えられる?
鍛えられますが、先に効くのは配分の設計です。
呼吸に使う筋肉は、訓練の対象になります。クラシックの訓練を受けた歌い手に呼吸筋を鍛える訓練を行い、筋力やフレーズの長さ、声の強弱の幅への影響を調べた研究もあります(出典:Journal of Voice)。
ただ、体力をつけても、吸う場所と振りがぶつかったままでは、息は足りなくなります。まず配分を設計し、そのうえで通し練習の回数を重ねて持久力をつける順番のほうが、無駄が少なくなります。毎日の練習量の考え方は歌の練習は毎日やるべきかで扱っています。
声を守るために
息が上がった状態で高い音を張り続けると、喉への負担が大きくなります。通し練習が続く時期は、振りを半分の大きさにした練習を挟み、声を休ませる時間を作ってください。歌ったあとにかすれる日が続く場合は声が枯れる原因と回復の基本を確認し、長引くようなら耳鼻咽喉科に相談してください。声の不調の診療の流れは、国内の学会がまとめた指針にも示されています(出典:音声障害診療ガイドライン2018年版)。
動きながらでも、リズムは保てる?
保てます。振りの拍と歌の拍を同じ体で感じられると、むしろ安定します。
動きは、歌の邪魔をするだけのものではありません。正確に歌える人ほど拍に合わせて体を動かす精度も高く、両者は共通の仕組みで動いていると考えられています(出典:Frontiers in Human Neuroscience)。
振り付けは、拍を体に刻む動きの連続です。振りの強い動きが拍の頭に来ていれば、それが歌の拍の目印になります。崩れるのは、振りと歌が別々の拍を感じているときです。振りを数える「ワン、ツー」と、歌のフレーズの頭がどこで重なるかを確かめておくと、振りそのものがテンポを保つ手がかりになります。踊ることとリズム感の関係はリズム感がなくても歌はうまくなるかでも触れています。
よくある質問
Q. 振りと歌、どちらを先に覚えるべきですか。
歌を先に仕上げるのがおすすめです。歌が考えなくても出てくる状態になっていれば、振りを覚える間にも、息を吸う場所を確かめられます。
Q. 本番で息が上がってしまったら、どうすればいいですか。
次に吸える場所で、まず息を吐き切ってから吸ってください。吸うことだけを急ぐと浅い呼吸が続きます。長い音はいつもより短めに切り上げ、息の余裕を作ります。
Q. ヘッドセットのマイクで歌うときの注意点はありますか。
口との距離が一定になるので、息の音や吸う音が拾われやすくなります。吸う音が大きく入らないよう、口を開けて静かに吸うことを意識してください。
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