録音を聴くと、声がどこか鼻にかかっている。あるいは、鼻が詰まったようにこもって聴こえる。どちらも「鼻声」と呼ばれますが、起きていることは正反対です。
鼻にかかる声を直そうとして、鼻の響きを消そうとする人がいます。ところが、声がこもっているタイプの人がそれをすると、かえって響きが減ってしまいます。まず、自分がどちらの型かを知ることが先です。
鼻声の正体は、口の奥の小さな部位の使い方にあります。
二つの型の見分け方を先に示し、型ごとの整え方、通る声との関係の順に扱います。
鼻にかかる声には、二つの型がある?
鼻へ抜けすぎる型と、鼻の響きが足りない型があります。
一つめは、鼻へ響きが抜けすぎる型です。声がふわっと鼻から漏れるように聴こえ、張りが出にくく、甘く頼りない印象になります。二つめは、鼻の響きが足りない型です。風邪で鼻が詰まったときのように、「ま」が「ば」に、「な」が「だ」に近く聴こえ、こもった印象になります。
日常では、どちらも「鼻声」と呼ばれます。けれど、直す方向は逆です。抜けすぎる型は鼻への通り道を狭め、足りない型は通り道を開けます。
なぜ、鼻にかかるの?
口の奥にある「鼻への扉」の開き具合と、舌の奥の高さで決まります。
口の天井を奥へたどると、硬い部分の先に柔らかい部分があります。これが軟口蓋です。要するに、口と鼻の間にある扉のような部位で、上がると鼻への通り道が閉じ、下がると開きます。「ま」「な」「ん」のような音では扉が開き、声が鼻へ通ります。それ以外の母音では、ふつうは扉がかなり閉じています。
声の要素を部位ごとに分け、それぞれを独立して動かせるように練習する考え方では、軟口蓋も練習で意図的に動かせる部位の一つとして扱われています(出典:米国音響学会誌(Estill Voice Model))。鼻声は生まれつきの声質というより、扉の使い方の癖であることが多いということです。
もう一つの要因が、舌の奥です。舌の奥が持ち上がると、口の奥の空間が狭くなり、声の響きが口から出にくくなります。行き場を失った響きが鼻へ回ると、抜けすぎる型になります。
鼻の響きを使うかどうかで、声の周波数の成分と聴こえる音色が変わることは、歌声の研究でも調べられています(出典:鼻腔の共鳴を調べた研究)。
自分がどちらの型か、どう確かめる?
鼻をつまんで「あー」と「まー」を出し、音の変わり方を比べます。
| 確かめ方 | 結果 | 考えられる型 |
|---|---|---|
| 鼻をつまんで「あー」 | 音が大きく変わる、こもる | 鼻へ抜けすぎている |
| 鼻をつまんで「あー」 | ほとんど変わらない | 母音では扉が閉じている(通常) |
| 鼻をつままずに「まー」 | 「ばー」に近く聴こえる | 鼻の響きが足りない |
「あー」は本来、鼻をつまんでもあまり変わらない音です。大きく変わるなら、母音でも扉が開いたままになっています。録音して、鼻をつまんだときとつままないときを聴き比べると違いが分かりやすくなります。
鼻にかかった声は、直すべき?
意図して使えるなら個性です。いつも同じ状態から抜け出せないなら、整える価値があります。
鼻の響きが少し混ざった声は、甘さや柔らかさを出したい曲で効果的に働きます。問題は、曲の表情に関係なく、いつも同じ鼻声になっていることです。張りのあるサビでも鼻に抜けてしまうと、声が前に届きません。
声質は、変えられる部分と変えられない部分に分けて考えられます。扉の使い方は、変えられる側です。何が変わり、何が残るのかは声質は変えられるのかで整理しています。
鼻に抜けすぎる声は、どう整える?
口の奥の空間を広げ、扉の上げ下げを感じ取る練習から始めます。
あくびの始まりの形を使う
あくびをしかけたとき、口の奥がふわっと広がり、軟口蓋が持ち上がる感覚があります。この形のまま「あー」と出すと、響きが口から出やすくなります。あくびを最後までしてしまうと喉に力が入るので、始まりの形だけを使います。口の奥の空間の作り方は喉声を直すにはでも扱っています。
「んー」から「あー」へ切り替える
「んー」とハミングすると、扉が開いて声が鼻へ通ります。そこから口を開いて「あー」に切り替えると、扉が閉じる動きが起きます。「んー」「あー」を交互に繰り返し、扉が開く感覚と閉じる感覚の違いを覚えます。
ストローで声を出す
細いストローをくわえて声を出す練習(ストロー発声)も役に立ちます。チューブを使った発声を5分行った後に、喉の奥の空間が広がり、軟口蓋の閉じ方が改善したことが画像で確認されています(出典:ストロー発声の効果をまとめた総説)。音量を落として行えるので、家での練習にも向いています。やり方は家で声が出せないときの練習を参考にしてください。
こもった鼻声は、どう整える?
「ま」「な」「ん」で鼻の響きを取り戻し、舌の奥の力を抜きます。
こもる型では、鼻へ通るべき音でも扉が閉じ気味になっています。「まーまーまー」「なーなーなー」とゆっくり歌い、鼻の付け根や頬に軽く指を当てて、振動が伝わるかを確かめます。振動を感じられたら、そのまま母音へつなげます。
舌の奥に力が入っている場合は、舌先を下の前歯の裏に軽く当てたまま歌うと、奥が下がりやすくなります。
なお、鼻の詰まりが続く、話し声でも強い鼻声が長く続く、声がかすれるといった症状がある場合は、練習より先に耳鼻咽喉科での確認をおすすめします。声の不調が続くときの受診の目安は、学会のガイドラインにもまとめられています(出典:音声障害診療ガイドライン2018年版)。
通る声は、鼻で作る?
通る声の中心は鼻ではなく、喉の少し上の空間で作られる響きです。
「鼻に響かせると声が通る」と教わることがありますが、遠くまで届く声の正体は、約3kHz付近に集まる響きの山だと分かっています。これは喉頭の上の狭い空間で作られます(出典:歌声の音響学)。鼻に響かせる感覚が、結果として口の奥を整える手がかりになる人はいますが、鼻へ声を抜くこと自体が目的ではありません。通る響きの作り方は歌の倍音とはと歌の声量を上げるにはで扱っています。
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よくある質問
Q. 高い音になるほど、鼻にかかります。
高音で舌の奥や喉に力が入り、口の奥が狭くなっている可能性があります。あくびの始まりの形で口の奥を広げ、音量を落として高音を出す練習から始めてください。
Q. 話し声も鼻声だと言われます。歌だけ直せますか。
歌の練習で扉の使い方を覚えると、話し声にも少しずつ影響が出てきます。ただし話し声の鼻声が強く続く場合は、一度耳鼻咽喉科で鼻や喉の状態を確認しておくと安心です。
Q. 鼻にかけた甘い声を、わざと使ってもいいですか。
使えます。大切なのは、使う場所と使わない場所を自分で選べることです。サビなど声を届けたい箇所では口から響かせ、柔らかくしたい箇所で鼻の響きを混ぜる、という使い分けを目指してください。
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