「声質って、結局どこまで変えられるんですか」。レッスンでいちばん多い質問のひとつです。
答えを先に言うと、変わります。ただし、変わるのは多くの人が想像している場所ではありません。生まれ持った楽器そのものが別物になるのではなく、その楽器の鳴らし方が変わる。結果として、聴こえる音色は驚くほど動きます。
ここを取り違えると、努力の方向が狂います。変えられない寸法を変えようとして喉を締め、変えられるはずの操作には手をつけないまま年月が過ぎる。まずは境界線を引きましょう。
この記事では、どこが固定でどこが可変かを分けたうえで、可変な側をどう動かすのかを順に整理します。
声の音色は、どこで決まっている?
音のもとを作る声帯と、それを色づける空洞。この二段構えで決まります。
声は、まず声帯が震えてブザーのような音のもとを作り、それが喉・口・鼻の空洞を通るときに特定の高さの成分だけが強められて外に出ます。この「強められる帯域」が音色の正体です。同じ声帯の音でも、通る空洞の形が変われば、聴こえる音色は別物になります。
この考え方を訓練の枠組みにしたモデルでは、声を息を送る力・音のもとを作る声帯・音を色づける管の三つに分けて、それぞれを独立に扱います。声帯の厚みの使い方、喉仏の高さ、喉の奥の細い部分の狭さなどを別々に操作できる要素として整理し、感覚のフィードバックを頼りに学習していく設計です(出典:米国音響学会誌)。
ここで押さえておきたいのは、音色は一枚岩ではなく、いくつもの独立したつまみの組み合わせだという点です。全部まとめて「地声」「良い声」と呼んでいるうちは、動かしようがありません。
訓練を受けた人は、何ができるようになっている?
ひとつの良い声を手に入れるのではなく、音色を切り替える幅が広がっています。
ポップスやロックなど、いわゆるマイクを使うジャンルのプロ歌手35名を対象に、体系的な発声訓練の資格を持つ20名と、そうでない15名を比べた調査があります。訓練を受けた側は、声質を作る要素を意図的に切り替えて、幅の広い音色を出し分ける傾向が見られました(出典:Journal of Voice)。
この結果の読み方が大事です。訓練の成果として現れたのは「良い声になった」ではなく、「出せる声の種類が増えた」でした。声質を変えるという言葉が本当に指しているのは、こちらです。
なぜ「幅」のほうが価値があるのか
ひとつの美しい声しか持っていないと、曲がその声に合っているときしか力を発揮できません。歌詞が変わっても、テンポが変わっても、同じ音色で押し切ることになります。逆に切り替えの幅があれば、場面ごとに最適な音色を選べます。ジャンルごとに何を変えて何を残すかは歌い分けで変える所と残す所で扱っています。
変えられないのは、具体的にどこ?
声帯と声道の寸法、そしてそこから決まる響きの重心です。
よく通る歌声には、3kHz付近に響きの山が現れます。この山の中心がどのあたりに来るかは体格と連動していて、声の種類ごとの中心が測られています。低い声のバスでおよそ2,420Hz、バリトンで2,550Hz、テノールで2,840Hz、女声のコントラルトで3,000Hzという具合です(出典:歌声の音響学に関する解説)。
管が長ければ響きの重心は低く、短ければ高くなる。これは物理の話なので、訓練でひっくり返せる部分ではありません。低音が魅力の人が、細く軽い声の人とまったく同じ音色になることはない、ということです。
これは制約であると同時に、出発点でもあります。自分の土台がどのあたりにあるのかは、音域の限界と伸ばす順番を確認していくと見えてきます。まずは「そこは動かない」と受け入れるところからです。自分の声が嫌いだと感じる理由の多くは、この固定部分と可変部分の混同から来ています。
では、動くつまみは何がある?
閉じ方・空間・舌と顎・息の配分。この四つです。
順に見ます。それぞれ、聴こえ方への効き方が違います。
1. 声帯の閉じ方
息が漏れながら鳴っているのか、しっかり閉じて鳴っているのか。ここが変わると、かすれた質感からはっきりした質感まで、かなり広い範囲を動きます。かすれ寄りの質感が続くときは、負担のサインである場合もあるので、声が枯れる仕組みと回復の基本もあわせて確認してください。
2. 喉の奥の空間
喉仏の高さと、その上の空間の広さ。ここが狭いままだと音は平たくなり、確保できると厚みが出ます。締まってしまう状態の直し方は喉声の直し方にまとめてあります。
3. 舌と顎の位置
音色を最も速く変えるつまみです。同じ母音でも、舌の高さを少し変えるだけで強調される帯域が移動します。歌の途中で音色が変わってしまう人は、たいていここが無自覚に動いています。
4. 息の量と圧の配分
息を多く流すか、圧をためて少しずつ使うか。同じ音量でも質感が変わります。息の配分と漏れの問題で扱った内容が、そのまま音色にも効いてきます。
音色が変わったかどうかは、どう確かめる?
感覚ではなく、鳴っている帯域の変化で確かめます。
自分の耳は当てになりません。頭の骨を通った音が混ざるうえ、変えたつもりという記憶が判断を歪めます。客観的な目安として使えるのが、一定時間の平均的な音の分布です。話し声の音質を分類した研究では、良好と評価された声は3〜4kHz帯にはっきりしたピークが出て、評価の低い声は1〜3kHz帯の音圧そのものが低いことが示されています(出典:Journal of Voice)。
専門的な計測をしなくても、同じ環境・同じ曲・同じ位置で録った音源を並べて聴き比べるだけで、変化はかなり分かります。手順は録音して聴くときの進め方にあります。
どのくらいの期間で変わる?
切り替えの体感は数週間、定着は数か月という幅で考えます。
健康な人への発声訓練を広く見渡した総説では、音域や音圧の幅、音の高さの制御、音響的な音質、自己評価が改善するプログラムが複数確認されています。ただし、どの程度の量をどれだけ続けるべきかについては、研究間で条件がそろっておらず、合意はまだ形成されていないとも整理されています(出典:Journal of Voice)。
つまり、変化そのものは確認されているけれど、期間を断定できる段階ではないということです。実際のレッスン現場でも、新しい音色を出せる瞬間が来るのは比較的早く、それを狙って再現できるようになるまでには時間がかかります。出せることと、使えることのあいだに大きな距離があるというのが実感に近いところです。
“なんとなく”のボイトレを、ここで終わらせる。何を直せば伸びるのかを、感覚ではなく診断で。
初回ボーカル診断に申し込む(無料)約60分・オンライン/対面。あなたの声を5指標(V-Karte)で可視化し、最短の一歩を設計します。
よくある質問
Q. 高い声を低い声に、根本から変えることはできますか?
声帯や声道の寸法は訓練で変わらないため、土台の高さは動きません。ただし響きの厚みや重心の置き方は操作できるので、聴こえる印象はかなり変化します。
Q. 声質を変える練習は、喉に負担がかかりませんか?
力で押して作ろうとすると負担になります。空間と息の配分から入れば負担は下げられますが、痛みや持続する違和感が出た場合は練習を止めて医療機関で相談してください。
Q. 話し声も一緒に変わりますか?
使う筋肉と空間が共通しているため、歌の練習が話し声の質に影響することはよくあります。ただし目的が違うので、狙って変えるなら別々に取り組むほうが確実です。
もっと深く知りたい方へ。Vocal Camp公式LINEで、3D Voiceメソッドの解説と次回診断の案内をお届けしています。
LINEで案内を受け取る